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ドナルド・トランプの危うい産業政策

○トランプ次期大統領の進む危険な道

トランプ次期大統領が自動車大手フォード・モーターのメキシコ工場新設を取りやめさせたとのニュースが報じられました。

フォード、メキシコ投資計画を撤回 トランプ氏が再三批判 【1月4日 AFP】

米フォード・モーター(Ford Motor)は3日、メキシコに新工場を建設する計画を撤回すると発表した。同社によるメキシコ工場新設をめぐっては、米国の雇用を重視するドナルド・トランプ(Donald Trump)次期米大統領が再三批判していた。そのトランプ氏は、メキシコで生産した車を米国に輸入している米ゼネラル・モーターズ(GM)にも新たに矛先を向けた。

 フォードは16億ドル(約1880億円)を投じてメキシコ中部サンルイスポトシ(San Luis Potosi)州に工場を新設する計画だった。しかしこれを取りやめ、代わりに米ミシガン(Michigan)州のフラットロック(Flat Rock)工場に向こう4年間で7億ドル(約820億円)を投資して設備を拡張し、電気自動車(EV)と自動運転車を生産すると明らかにした。

(…中略…)

 フォードの発表の数時間前、トランプ氏はGMをやり玉に挙げ、同社が台数は少ないながらメキシコから米国に輸入しているセダン「シボレー・クルーズ(Chevy Cruze)」に高関税を科すとツイッター(Twitter)で警告した。

 また「米国は雇用と富を追い払うのではなく、イノベーションと雇用創出に関して世界の大きな磁場となる」とも書き込み、フォードの決定を歓迎した。

これに先立つこと12月にも、米航空機エンジン・機械大手のユナイテッド・テクノロジーズ(UTC)傘下で、空調大手キャリアがメキシコ移転を見直し、インディアナ州の雇用1000人を維持すると発表しています。
さらに、フォードに続いてゼネラル・モーターズにも高関税をちらつかせて、アメリカへの生産拠点回帰を図ろうとしているようです。

これらの動きは、今のところ国外への雇用流出の阻止を公約に掲げていたトランプ氏による口先介入によるものですが、次の理由から非常に危険な動きに思えます。

トランプ氏の産業政策が抱える3つの懸念

①大統領になる前にも関わらず「口先介入」が功を奏していること
②トランプ氏を支持した低所得白人層にとって、「 Make America great Again(アメリカを再び偉大な国に)」という言葉の具体化に感じられていること
「国際金融のトリレンマ」にはまってしまう恐れが高いこと 

○第1 口先介入奏功の悪影響

トランプ氏は、現時点でまだ大統領ではありませんから、ツィッターでの発言も許容されているところがあると思われます。
しかし、これに味をしめ、大統領就任後も同様の口先介入を強めてくることも考えられます。
その場合、就任前と違って、アメリカ大統領としての発言になるので、特に中国やメキシコなどと軋轢が深まる恐れがあります。
また、不用意な為替への言及などにより、思わぬ通貨危機を招いてしまうことも懸念されます。

さらに、国外進出を断念した産業界からは、大統領就任後に何らかの見返りを求める圧力が強まることが予想されます。
この場合、一時的には国内産業の活性化が起こるかも知れませんが、ロビイストによる恣意的な政策誘導も相まって、保護主義的な産業政策とそれに伴うインフレ率の上昇が懸念されます。

○第2 低所得白人層の期待と失望

第1とも関連するのですが、産業界が求める見返りとして各種補助金や関税障壁の導入などを実施した場合、米国内のインフレ率の上昇につながる可能性があります。
特に輸入品への高い関税によるコストプッシュ・インフレが生じると、米国産業の弱体化と物価の上昇が同時に起こりえます。
雇用の喪失と生活の困窮が進ことは、トランプ氏を支持してきた低所得白人層には決して優しい状況ではありません。
期待が大きい分、大きな失望を招いてしまい、社会不安を引き起こすことが懸念されます。

この社会不安は、トランプ氏が白人の富豪であることも相まって、種差別・社会的格差への過度な批判・宗教対立など、米国社会に想像以上の亀裂を生じさせるかもしれません。
そうなると、もはやトランプ氏が大統領としての求心力を失ってしまうことも危惧されます。

○第3 国際金融のトリレンマ

国際金融のトリレンマとは、
➀自由な資本移動
②為替相場の安定(固定相場制)
③独立した金融政策  
の3つの政策は、同時に2つまでしか完全には実現できないというものです。

このため、これまでのアメリカ・日本を含めた多くの先進国では、②の為替を変動相場制とすることで➀と③を維持しています。
(ちなみに、EU諸国は単一通貨ユーロを採用しているため、③欧州中央銀行(ECB)による金融政策を受入れ、➀と②を維持しています。)

ここでトランプ氏の政策を見てみると、先ほどの記事にもあったように、➀自由な資本移動を制限すること(=アンチ・グローバリズム)を志向しているように思われます。
となると、逆説的になりますが、アメリカが国外からの資本に依拠せずにいられる間は、②の為替について裁量的な運用(例えば、ドル安誘導)を仕掛けてくる可能性があるのです。
しかしながら、これではアメリカが毛嫌いしている「為替操作国」(トランプ氏も中国を為替操作国として非難するつもりのようですが)を自ら行うようなものであり、国際社会から白い目で見られかねません。

実際には、もう少し緩やかに運用していくことになるのでしょうが、トランプ氏のいう「イノベーションと雇用創出に関して世界の大きな磁場」として、アメリカが世界から見て魅力的になるのかどうか、極めて怪しくなってきます。

○まとめ

今のところ、トランプ氏が大統領就任前ということもあり、これらの想定は杞憂に過ぎません。
さらに周辺の閣僚をはじめ、様々なバランスの元で、もっとうまく問題を克服できることもあるでしょう。
しかしながら、アメリカという超大国が大衆迎合的なスタンスのリーダーに率いられる時、そしてその期待が崩壊した時、アメリカ発の不安が恐慌を引き起こし、世界的悲観へと変わっていく可能性にも注意が必要だと思います。

 

 

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